2013(平成25)年2月17日のことである。
時刻は午後5時50分頃。大分県九重町の役場近くの道路を、一台の観光バスが走っていた。そこは県道と町道が交わる丁字路で、バスはちょうどその突き当たりに向かって走行していた。
ところがこのバス、尋常な状態ではなかった。もともとこの道路は長い下り坂なのだが、後に後続車の運転手が証言したところによると、バスはこの坂に至って急に加速したという。また車内では、事故直前に運転手が「うーうー」とうめいていたとか、あるいは「ギアが入らない」と話していたとか、事故後にそんな証言も出ている。
どうやら、下り坂で操縦が利かなくなってしまったらしい。バスはそのまま丁字路に突っ込んでいき、ガードレールを突き破って2.7メートルほど下へ転落した。そこはJR久大線の線路だった。
当時、近くの線路では由布院発日田行きの普通列車が走っていたが、連絡を受けた運転士が現場の100メートル手前で停車して事なきを得ている。そこは単線で、一時間に一本程度の列車が走っていた。
転落したバスは、福岡県大川市にある城北交通大川営業所のもので、福岡県から九重町のスキー場へ日帰りスキーツアーに行った帰りだった。これには運転手一名と乗客42名の合計43名が乗っており、事故によって女性客と運転手の二人が打撲や骨折の重傷を負い、子供を含む40~41名が怪我をしている(資料によって人数にぶれがある)。
バスは大破し、衝撃で線路は曲がってしまったという。それでも死者がおらず、電車も現場手前で停まったのは幸いだった。
これが本当なら、バスは走行中にいきなり操縦不能に陥ったことになる。原因はなんだったのだろう? 車体は玖珠署に運ばれ、メーカーなども巻き込みながら捜査が進められた。
バスは9月にはきちんと車検を受けていた。三カ月に一度の定期点検でも問題なし。また出発前には車体を点検し、異常なしと報告されていた。どうやら故障や欠陥ではないらしい。
最終的に、事故原因は「フェード現象」ということで断定された。
フェード現象とは、ブレーキ(フットブレーキ)を短い時間であんまり何度も何度も繰り返すことで発熱し、ブレーキの機能が失われてしまう現象である。長く続く下り坂などでブレーキを多用すると、たまに起きることがある。
実際、バスが走行不能になった下り坂では、このフェード現象による事故が過去10年の間に7回も起きていたという。
よって、警察は、重傷を負った運転手の運転ミスが原因だったとして書類送検した。自動車運転過失傷害の容疑である。メーカーやバス会社への責任追及は行われなかった。
事故の初公判は5月14日に大分地裁で開かれている。検察側と弁護側の言い分はそれぞれ以下の通り。
検察側「長い下り坂での操作ミスは、運転操作や注意義務を怠ったもの。禁固1年6か月の実刑を求める」
といった塩梅で、6月19日に判決が言い渡された……はずなのだが、どうしたことか、どういう判決が下されたのかをネットで調べてもぜんぜん見つからない。というわけで、判決は不明である。
◆観光バスが線路に転落、42人重軽傷 大分県九重町
◆大分県 観光バスの滑落事故、原因はブレーキ多用...運転手が過失傷害容疑に
◆運転手「ギア入らない」 大分のバス事故、事故直前に話す
◆フェード現象での大型バス事故、起訴事実を認める - レスポンス(Response.jp)