◆ロックハート熱気球墜落事故(2016年)

 2016(平成28)年7月30日のことである。

 時刻は、アメリカテキサス州の現地時間で午前6時58分。スカイダイビングセンターから一機の熱気球が出発した。乗員は、パイロットが1名と乗客が15名である。青と紅白で彩られ、サングラスをかけたにこちゃんマークが描かれた、カラフルで大きな熱気球だ。

 ところが、これが墜落した。

 時刻は午前7時40分頃。墜落場所はロックハートという地域で、テキサス州の州都オースティンから南へ約50キロほどの地点だった。検索すると現場写真が見られるが、だだっぴろい農閑期の畑か草原のような場所である。英語版ウィキペディアでは「マックスウェル州の合併されていない地域」とあった。

 ロックハートは、レンガ造りの建物が多く景色のいい街だそうな。墜落した熱気球もオースティン周辺を観光するプランで遊覧飛行していたというから、全体的にきっと風光明媚な地域なのだろう。それにしても、人のいる場所に墜落しなかったのは不幸中の幸いだった。

 墜落の直接の原因は、火災だった。どうやら飛行中にゴンドラから出火したらしい。

 ルクソールでの墜落事故と違って、このロックハートの事故は、現場の写真でも気球の球皮そのものはほとんど燃えていないように見える。なので、おそらくゴンドラ部分で起きたトラブルが主な原因で墜落したのだろう。

 午前7時44分には緊急サービスに連絡が入り、墜落したゴンドラの捜索が行われた。

 これは、事故から間もなく、郡保安官事務所から出された声明である。

「現時点では、事故の生存者はいないものと思われる。事故現場に救急隊と保安官事務所職員が到着した時、火災は熱気球のゴンドラ部分で発生したように見えた。」

 事故の調査には、アメリカ連邦航空局(FAA)と運輸安全委員会(NTSB)も乗り出した。さらに連邦捜査局(FBI)までもが参戦するなど、大変な騒ぎになった。

 これほどの騒ぎになるのも無理はなかった。死者16名というのは、記録で見る限り熱気球事故としてはアメリカ史上最悪である。さらに言えば全世界規模で見ても第2位だ。テロの可能性…とまで言うのは大げさすぎるかも知れないが、当局が事態をかなり重く見たことは間違いなかった。

 さて、FBIによって、事故の残骸から14個の携帯電話やスマホが回収されるなど、現場では証拠物件が押さえられた。NTSBはこの事故を「大事故」に指定し、調査が続けられた。

 目撃者や関係者の証言も集められた。おそらく飛行中にだろう、銃に似た二度の破裂音があった…とか、気球は30分ほど連絡が途切れていた…とか、もろもろの情報を総合して出された結論は「送電線への接触による火災」だった。

 情報に乏しく、火災が起きてから墜落するまでの詳しい経過はよく分からない。とりあえず資料の文章のニュアンスからして「送電線に接触→ゴンドラで火災発生→ゴンドラ燃え尽きる→電柱に衝突→そんなこんなで操縦不能→墜落」みたいな感じの流れだったのではないかと思われる。

 ではなぜ、送電線に接触したのか。

 その原因は「パイロットの判断ミス」で片付けられたようだ。墜落直前、熱気球は霧や雲の上を飛行し続けており、気球の下に障害物があっても発見や回避は困難だったという。だいぶ危険な状況だったのだ。

 ちなみにこのパイロットは、事故を起こした気球遊覧飛行を企画した会社の社長だった。彼はうつ病とADHDを併せ持っており薬も服用していたのだが、熱気球の操縦に際して診断書は必要なかったらしい。彼のそんな病状も、判断力低下の原因と見なされたようだ。社長を失ったこの企画会社は、8月には操業を停止した。

【参考資料】
熱気球で起こった恐怖の事故10選
AFPニュース
PIXLS 
めら☆そく
◆ウィキペディア

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