◆大阪ツインタワー将棋倒し事故(1997年)

 1997(平成9)年10月2日のことである。

 時刻は午前10時20分頃。大阪市中央区城見にある「大阪ビジネスパーク」内の超高層ビルを、164名(資料によっては165名とも)の小学生が見学に訪れていた。同市の河内長野市立加賀田小学校の三・四年生である。

 大阪ビジネスパークとは、1960年代後期(昭和40年代)以降に大企業が共同で建設した再開発地域である。超高層ビルと都市公園で構成された近代的な場所で、大阪市の経済・商業の一大拠点でもある。

 児童が見学に訪れていたのは、このビジネスパークの中核的な建物であるTWIN21(ツインにじゅういち)、通称「大阪ツインタワー」だった。地上38階建てで、2階には「電気科学館」という施設があることから、しょっちゅうこうした形で子供たちの見学を受け入れていたようだ。

 さて、児童たちは、くだんの電気科学館をめざしてエスカレーターに乗り込んだ。

「はーいみんな、エスカレーターは2列になって乗ってくださ~い」

 と言ったのかどうかは分からないが、引率の先生はちゃんとそう指示した。子供たちもそれに従った。

 しかし、つくづく子供というやつは動きの予測がつかない。よっぽどはしゃいでいたらしく、先頭の児童が後ろ向きで乗り込んでしまった。

 なんで後ろ向きに? と最初ちょっと不思議だったのだが、大阪ツインタワーの現在の間取りをホームページで見てみて、なんとなく想像がついた(間違っているかも知れない)。この建物の一階には巨大な円形ホールがあり、そこから上階に向かって巨大な吹き抜けとなっているのだ。もし当時も同じ構造だったとしたら、これはエスカレーターで後ろ向きで眺めたら見応えがあったことだろう(繰り返すが、この想像は間違っているかも知れない)。

 さて、エスカレーターは二階に到着した。しかし、後ろ向きになっている児童はそのことに気付かない。いきなり足元が停止したことで、つまずいて前のめりに倒れた。そして後続の児童にぶつかってしまった。

 そこからは将棋倒しである。エスカレーターで上から下へバタバタと転倒が連鎖し、見学に来ていた児童のうち60名が折り重なって倒れてしまった。

 一大事である。事故に気付いたビルの職員が急いでエスカレーターを非常停止させたものの、最終的に32名が打撲などで病院送りとなってしまった。このうち、四年生の女の子は左足を骨折し入院している。

 「目の前が急に真っ暗になった。下敷きになって重くて動けなかった」――。事故に巻き込まれた児童のひとりは、こう証言した。

 さて、引率の先生は、児童が後ろ向きで乗っていたことに気付かなかったのだろうか?

 どうやら、気付かなかったらしい。

 当時は七名の先生が児童を引率していた。が、先述の通り、うち一人はエスカレーターの下で児童を2列に並ばせており、他のことには注意が向かなかった。また、もう一人がエスカレーターの「上部」にいたというが、これは離れていたため十分に目が行き届かなかったとか。

 参考資料の表現が曖昧なため、また想像が膨らんでしまうのだが、もしかすると「上部」にいたという先生は最上部の降り口で児童たちを待ち構えていたのではなく、児童と一緒にエスカレーターに乗っていたのではないだろうか。

 そういえば資料によると、「エスカレーターの真ん中ぐらいまで来たとき、上の方から子供たちが次つぎに落ちてきた」と証言している先生がいた。この人が「上部」にいた先生と同一人物だったと考えると、なるほど最上部の降り口にいる場合と比べて、先頭の児童の様子には気付きにくいかも知れない。

 まあ、このへんは特に意味のない想像である。

 事故が起きたエスカレーターは800型と呼ばれるごく標準的なタイプで、踏板の幅は約60センチ。たぶんこのタイプはほとんどの人が乗った経験があると思うが、大人が一人でやっとの幅である。子供だって二列で乗ったらギチギチだろう。これでは、将棋倒しが起きても避けようがない。

 もともと、頻繁に児童の見学を受け入れていたツインタワー側では、幼稚園児が見学に訪れた場合には階段を利用させるルールになっていたようだ。また河内長野教育委員会も、児童が集団で施設を見学する場合は、原則として階段を使わせていたという。

 しかし、小学三・四年生である。幼稚園児に比べればずっと安全だろう――ということで、ビルの管理会社と学校とで相談して、今回はエスカレーターを使おうという結論になったのだった。それで事故ったのだから切ない話だ。死者が出なかったのは不幸中の幸いだったと思う。

 業務上過失傷害の疑いで、大阪府警による捜査も行われている。その後どうなったのかは不明だ。

【参考資料】
◆岡田光正『群集安全工学』鹿島出版会、2011年
◆山形新聞
◆ウィキペディア

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