◆姫路国際会館火災(1971年)

 1971(昭和46)年1月1日のことである。兵庫県姫路市の4階建ての遊技場「国際会館」が火を噴いた。

 発覚したのは、22時10分のこと。年が明けたばかりのこの日、同施設は21時40分に営業を終えていた。その後、4名の従業員が3階の事務室で後片付けをし、帰路につこうと階段を下りたところで煙に気が付いたのだ。

 燃えているのは、2階の東側にある卓球場だった。さっそく従業員のうち1名が、従業員寮になっている4階まで駆け上がって火事ぶれを行い、さらに3階で消防に通報してから脱出した。他の3名も、火事を知らせたりしながら、急いで階段から避難している。

 一見、もたもたせず迅速に行動しているな~という印象を受けるが、初期消火や火災報知ベルは鳴らされていない。

 もともと、この施設の従業員は、防火管理についての意識が低かった。消防計画は無し、消火や避難の訓練、設備点検も行われていなかった。報知機のベルも停止状態。ハード面・ソフト面いずれも欠陥だらけだった。

 こんな状況だったので、屋内に延焼を助長するような可燃物がたくさん置かれていた……と聞かされても驚く人は少ないだろう。むしろ「ああやっぱり」で、火元から上階へと続くらせん階段の周辺には紙類や木片、ゴム類が積み上げられていた。これらを伝って、火炎は上階へみるみる延焼。煙も一緒に4階へ拡大していった。

 建物自体は耐火造だったという。だがしかし、内装は木造や合板張りだった上に防火区画は存在せず、屋内はすべてぶち抜きでひと繋がりという構造だった。ぜんぶ焼いて下さいといわんばかりだ。なんの抵抗も障害もなく、炎は燃え広がっていった。

 そうこうしているうちに消防隊が到着。この時にはすでに2階の窓から炎と黒煙が噴き出しており、中に進入するのは不可能だった。

 消火作業は外から行うしかない。路上や、周囲の建物の屋上から放水が行われるが、炎は4階にまで拡大していく――。

 この4階というのが従業員寮だったのは先述した通りだが、悪いことに、建物の主な階段が直通ではなく、とても脱出しにくい構造だった。先に火事を発見していち早く避難したメンバーは良かったのだが、逃げ遅れがいた。

 当時この4階にいた男性1名は、最初の火事ぶれを聞いて3階へ駆け下りている。しかし煙に阻まれて脱出はならず、屋上へ逃げた。これは無事に消防隊によって救助されている。

 建物はみるみる焼け落ちた。焼損面積は2~4階の延べ1,844平方メートルである。鎮火したのは、火災発見からほぼ2時間後の23時50分だった。

 そして2名が遺体で発見された。いずれも20代の女性従業員で、一緒に避難しようとして階段を降り、2階に通じる階段踊り場へ出たものの煙を吸ってしまったらしい。

 彼女たちは施設の勤務歴が長く、内部の状況に詳しかった。二人の倒れていた場所から僅かのところに窓があり、そこから隣のベランダへ逃げようとしたのではないかと考えられた。

 火元の卓球場近くにはゴミ箱があり、出火原因はそこに捨てられたタバコだろうと推測された。断定には至っていない。

 余談だが、これを書いている時点(2019(令和元)年5月19日)のちょっと前に、フランスのノートルダム大聖堂が火災で焼け落ちた。それで、タバコが原因ではないかと推測されたのだが、当時改修工事を請け負っていた業者は「確かに現場でタバコは吸ったけど、たった一本で火事になんてなるもんか!」という趣旨の証言をしているらしい。

 いやいやいやいや。

 なるから。

 タバコ一本で、火事に。

 もちろん筆者は、ノートルダム大聖堂のハード面での防火対策がどうなっていたのかは知らない。上述の発言も、周辺情報を無視してそこだけ切り取ったものなのかも知れない。

 しかし、当研究室の数々の事例を見れば明らかである。状況によっては、タバコ一本で大火災になりうるのだ。マッチ一本火事のもとである。タバコのポイ捨てはやめよう。

【参考資料】
特異火災事例
◆『日外アソシエーツ 昭和災害史事典④(昭和46年~昭和55年)』紀伊国屋書店、1995年

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