2016年2月28日日曜日

◆イノバシオン百貨店火災(1967年・ベルギー)

 筆者が勝手に「群集事故のバイブル」だと思っている、岡田正光氏の『群集安全工学』という書籍がある。その中で、チラッと紹介されていた事故だ。

 時は1967(昭和42)年5月22日。ベルギーの首都ブリュッセルの、イノバシオン百貨店で火災が発生した。

 この火災による死者数は、325名。岡田氏によると、デパート火災としては史上最大の数字であるという。

 で、問題は、なんで火災事故なのに「群集事故のバイブル」で紹介されているのか――という点である。

 実はその点にこそ、この事故の特徴がある。325名という恐るべき数の死者のうち、その8割は、言うなれば「群集事故的逃げ遅れ」のため死亡したらしいのだ。

 火元は2階の売場である。具体的な原因は不明だが、出火はちょうどお昼の時間帯で、4階の食堂には大勢の人がいた。設置されていた350席のテーブルは満席状態だったという。

 そこへ濃煙が侵入したため、お客たちは一気に狭い出口に殺到した。

 あとは、何が起きたかは想像に難くない。人混みに遮られて出口に到達する前に、多くの人が煙を吸ったのだろう(あくまでも想像である。資料には「折り重なって倒れた」としか書かれていなかった)。この階での死亡者は260名に及んだ。

『群集安全工学』には、当時のイノバシオン百貨店4階の見取り図が載っている。正方形の食堂に小さな入口と出口がひとつずつあるだけで、解説によると「客は袋のねずみ」だったという。

 余談だが、筆者も、近所のショッピングモールの食堂をよく利用する。そこにも数百席のテーブルがあるが、このイノバシオン百貨店とはずいぶん構造が違っており、実に開放的な空間である。フロアが全て地続きで、仕切りの壁や、入口・出口にあたるものもないのだ。

 最初その食堂を利用した時は「ハイカラなデザインじゃのう」くらいにしか感じなかった。だが、こういう火災事例を読んでから改めて思い出してみると、やっぱり防災上の必要性からもこういう構造が採用されているんだろうなあ、と感慨深くなる。

 ※この事例については、別の文献にも書いてあるらしい。それを取り寄せたら、もう一度書き直そうと思う。

【参考資料】
◆岡田光正『群集安全工学』鹿島出版会、2011年

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