◆福井県武生市バス転落事故(1956年)

 1956(昭和31)年9月9日に起きた事故である。

 現場は福井県武生(たけふ)市、春日野町の国道8号線である。春日野トンネルというのがあるらしいが、そのトンネルの北口から武生寄り4キロメートルの地点で惨劇は起きた。午前6時、名古屋観光の観光バスが林に転落したのである。

 転落したその高さは70メートル。乗員乗客43名のうち10名が死亡した。

 この観光バスは、前日の夜に温泉巡りツアーで新岐阜駅を出発したばかりで、乗っていたのは愛知県の刈谷市と碧南市で募った観光客たち。予定では永平寺~片山津温泉というコースを楽しむはずだった。事故に遭遇したのは、全部で9台あったバスのうち6台目だった。

 運転手が操作をミスったのが原因だったようだ。そのミスの理由というのが「朝日がまぶしかったから」というもので、カミュみたいだ。

 ネット上で福井県史を眺めてみたところ、この事故を機として国道の改修要望が高まったのだという。だから、もしかすると事故原因は単純な操作ミスだけではなく、道路状況の悪さなどもあったのかも知れない。

 余談だが、ここまでバス事故の歴史を調べてきて、この武生市の事例に行き当たったところで「おっ?」と感じるものがあった。今までは小規模なバス旅行での事故ばかりで、観光バスが9台も出るほどの規模のバスツアーで事故が起きた事例というのはちょっとなかったと思う。

 戦後11年目で、時代も変わってきたのだろう。車内ギチギチの詰め込み型大量輸送で闇市に出かけるような時代は終わり、人々は観光バスに分乗してツアーに出かけるほどの余裕を手に入れたのだ。そしてこうした輸送状況の変化に対して、地方の道路は整備が追い付いていなかったのではないか。

 福井県ということでいえば、例の新・北陸トンネルの工事が始まるのがこの翌年のことである。田中角栄が総理大臣になるのはもっと先のことだが、「列島改造」という言葉が頭に浮かぶ。

 しかしいくら列島を改造しても、事故災害の根絶は難しい。いや、発生件数自体は明らかに減っているのだが、皮肉なことにハードやソフトが改善されればされるほど、いざ事故が起きてみると想像を絶する大惨事に発展することがある。黒歴史は続くよ、どこまでも。

 今回の事故の舞台になった武生市は、2005(平成17)年に越前市に統合されている。

【参考資料】
ウェブサイト『誰か昭和を想わざる』
『福井市史 年表』

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