2013年10月4日金曜日

◆『欠陥だらけの多面体と永久なる人形姫』感想



吉野茉莉さんは『彼女のための幽霊』からなる藤元杏シリーズ(リンゴさんシリーズ)で知られていますが、その茉莉さんによる、賛否両論の問題作。

僕は最初「この作品は中途半端」という前評判をちらっと聞いていたので、もしかして尻切れトンボ的な作品なのかな……と思いながら読みました(余談ですが、スマホのkindleアプリで初めて読了した作品でもあります)。

でもいざ読了してみると、ちゃんと着地しています。

「中途半端」というのも納得なら、ラストにも納得です。

武人くんと若菜さんの、全然情がなさそうなのに底の底ではつながっているという「真相」はとてもいいですね。そこに至るまでの地の文があれほどに不安定だからこそ、最後の「真相」から受ける驚きと感動も大きい。

ただ改めて想像してみると、彼らの愛は、これは一体どういう愛なのだろう、と不安を抱かずにはおれないような描写でもあります。

そこに至るまでの文体や構成の不安定さがあるために、読者としては、彼らの関係はラストできちんと着地したように見えても、どこか薄氷を踏むような感覚があります。

人間同士の絆とか愛って、もともとそういうものなのかも知れませんが。

この、大げさに言えば異常とも言える不安定さが独特の味わいで、読了後もなんだか忘れられない余韻を残します。

この不安定さのため、この作品は、決して読者に対して「親切」な作品には仕上がっていません。ラストが少し唐突な感もあるかな。果てしない不安定さを辿りながら物語を読み続けるのは、なかなか体力がいります。表紙のイラストの愛らしさとのギャップも、なかなかの眩暈もの。

それでもこの不安定さや唐突さが、まるで作者からポイッと投げ出されているようで、読者としては何が起きるか分からないような迫力を感じますね。僕はそういうのは好きです。逆に、変に読者に気遣ってマイルドな味わいにしてしまったら、この作品の面白さは半減するでしょう。

また、茉莉さんの他の作品とリンクする部分も多くあり、著者の作品をある程度まで通して読んでいる人なら、この作品はいろんなネタの中継地点というかハブというかルーターというか、そんな印象を受けるかも知れません。その意味で、茉莉さん読者にとっては、いろんな楽しみの詰まったおもちゃ箱のようでもあります。