2013年2月12日火曜日

◆『珈琲店タレーランの事件簿』感想


この『珈琲店タレーランの事件簿』は、非常に完成度の高い日常系ミステリです。おそらく、ドラマ化かアニメ化か映画化も遠い話ではないでしょう。

物語は、主人公がタレーランという名の珈琲店で、大変においしい珈琲と、それを作ってくれた切間美星バリスタと出会うシーンから始まります。このバリスタが素晴らしい頭脳を持っており、探偵役として鋭い推理力を発揮していくことになるのです。

以後は、連作短編の形でストーリーが展開していきます。その中で二人の素性と過去がからみ合い、事件と並行しながらその縁が深まっていくのですが、物語はラストで二転三転。単なる「日常系」の枠には収まらない面白さを備えた野心作と言えましょう。

唯一の難点と思われるのは、文章の冗長さです。地の文と登場人物の台詞のいずれも余計な「説明口調」になっており不自然に感じられるのです。もうちょっと軽やかに読ませてくれてもいいはずのストーリーが、無駄に冗長になっている感がなきにしもあらず。

悪い意味でテレビドラマ的なんですね。読んでいて、読者にとって容易に察せられる部分は省き、台詞の中で説明口調になっている部分は地の文に回すなど、もうちょっと工夫が欲しいなと思いました。

もっとも「このミス」というレーベル自体がテレビドラマ向けの作品を意識しているようなところがありますからね。それは賞の性格そのものを表しているのだと考えて、差っ引いて読んでもいいでしょう。

この辺りについて、僕が比較対象として頭の中で思い描いているのが、同じ日常系ミステリである『ビブリア古書堂』シリーズです。あれは文章全体があっさりし過ぎ・淡々とし過ぎのように見えて、実際には素晴らしい匙加減になっています。

――なんか偉そうにケチをつけてしまいましたが、この「難点」は僕自身も文章を書く時に気をつけていることなのです。だから気になるだけで、言い方を変えればそれ以外は特に気になる部分もなく、面白く読めました。

本当に個人的なことを書きますと、バリスタがあまりに魅力的すぎて僕はたまりません。一時期は寝ても覚めてもこの小説のことを考えていたほどです。

pixivでも意外に美星バリスタを描いたイラストが少なくて悲しい思いをしております。『珈琲店タレーランの事件簿』、まだまだ多くの人に認められる余地のある作品です。