2013年2月11日月曜日

◆『ふたりの距離の概算』感想

角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2012-06-22


『ふたりの距離の概算』は、例の古典部シリーズの最新作です。まだアニメ化もされていません。

なにしろ古典部シリーズなので、物語は例によって地味です。しかし構成は凝りに凝っています。

内容は、校内のマラソン大会の最中に、主人公が延々と推理を巡らせながら走るというもの。彼に与えられた謎はこうです――「古典部に入部しようとしていた女子生徒は、なぜ、ある日突然に入部を拒否し立ち去ったのか」。

主人公はこの謎を解こうとします。それまでの、その女子生徒との会話や言動をひたすら回想し、そしてそれら回想シーンの中から、手がかりを解答を導き出していくのです。そこに犯罪めいた要素はほとんどなく、いわゆる「日常の謎」の積み重ねとなっていきます。

こうした推理の果てに立ち現われてくる真相には、驚かされるというよりも感心してしまいました。散りばめられた手がかりと伏線が丁寧かつ巧妙に、まるで網のように張り巡らされ、最後にはその網でガバッと物語全体がすくい取られます。

この作品を例えるなら、精巧なからくり細工といったところでしょうか。よくここまで精密に作ったものだと思います。

またその他にも、物語の舞台をマラソン大会という場所に設定したことに、作者のセンスを感じます。それはなぜか。

まず「日常の謎」には、ある難点があります。日常的な情景の中に手がかりがさり気なく散りばめられており、それを元に謎が解かれる……という展開においては、時として、殺人や凶悪犯罪を取り扱うミステリよりもご都合主義的になることがあります。

どういうことかというと、主人公がたまたまその手がかりを見聞きしていたり、その主人公の話を聞いただけのはずの探偵役が、まるで自身の実体験のようにその話を語り出したりすることがあるのです。そのあたりが、僕には「日常の謎」ものの難点というかご都合主義的に見えるのです。

『ふたりの距離の概算』は、そうした難点に対するひとつの解決法を示していると思うのです。

この作品では、探偵役は、すでに全ての手がかりと伏線を体験しています。ですから彼は、自分自身のセンスに任せて、謎の解決に関係ありそうな手がかりだけを記憶の中から抜き出せばいいわけです。言うなれば、先に書いたご都合主義を先回りしているんですね。ですから違和感をおぼえません。

さらに、舞台をマラソン大会の場に設定することで「推理」と「行動」とが並行しており、読者を飽きさせません。またそこに、人間同士の距離感というテーマも盛り込んであるので、文学的な色香も感じます。

こうした工夫が、僕の目にはとても魅力的なものとして映ります。

ただ、探偵役が自分の記憶の中から手がかりと伏線を抜き出してくるという書き方は、ある意味でとても危険です。

なぜなら、必要最低限の手がかりが示されることになるので、読者がすぐに真相に気付くかも知れないからです。

そこで今度は、読者に真相を悟らせないための工夫も必要になってきます。『ふたりの距離の概算』にはそれがあります。決して派手で長大な作品ではありませんが、小振りなサイズの中に信じられないほどの精妙な細工が込められているのです。

僕の好みで言えば、この『ふたりの距離の概算』は、一連の古典部シリーズの中でも一番好きかも知れません(二番目は「心あたりのある者は」、三番目は『愚者のエンドロール』)。


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