2012年10月8日月曜日

◆『はじめての秋田弁』『あきたをおしえて!!』の感想文(長め)

はじめての秋田弁―爆笑四コマわっぱが物語

あきたをおしえて!!

以前にもちらっとご紹介しました、秋田県の「ご当地本」です。当県に住む女子高生たちが、日常のやり取りの風景を通して、秋田弁をはじめとする地域の文化・雰囲気などを教えてくれる。そんな4コマ漫画集です。

「地元地域の紹介・宣伝」というテーマと、あずまんが大王以来の「女子高生4コマ漫画」という形態の融合というスタイルは、今までありそうでなかったのではないでしょうか。斬新だと思います。

初めて見かけた時、僕はこの本に対して「欲しい!」という強烈な衝動をおぼえました。

それはもちろん、僕自身が秋田という地域に思い入れがあるからだったのですが、もうひとつ、この漫画には元来の「ご当地本」に対して僕が抱いていた不満を解消してくれる要素があったからです。

地域の文化などを紹介する本といえば、観光名所案内やグルメマップ、歴史の本、習俗の本などがあります。秋田県でも、書店で「地域の本」みたいなコーナーに行けば、並んでいるのは大抵そういうものですね(僕の地元・山形県もそうです)。

まあそれはそれで別にいいんですけどね。でもその手の本は、はっきり言って観光客向けか、地元の郷土史家や歴史家、もしくは民俗学肌の研究者が内輪で楽しむ本です。

僕のように秋田県に住んだことがあって、なんとな~く地域が好きでよく足を運び、そしてそこに住む人たちのことも好き、という人にとっては物足りないんですね。

僕の場合は、学生時代住んでいたことがあるので特殊かも知れません。だけど要するに僕が物足りなく思っていたのは、従来のご当地本からは地域の「空気」「雰囲気」が生々しく感じられないという点にあったのであって、これは実は地域おこしにおいても重要なことだと思うのです。

観光客に地域のことを紹介し、それを地域おこしに繋げていくには、大事なことがいくつかあります。その中のひとつに、これはあまり言われませんが「地元のことを笑って説明できるかどうか」というのがあると思います。

地域にはそれぞれいいところ、悪いところがありますね。そして観光客にはいいところだけを見せる、というのが宣伝の常道なのでしょう。でもそれは商業主義的に、上っ面だけに便乗するやり方です。

例えば秋田にはきりたんぽという名物がありますが、このきりたんぽの知名度に乗っかっただけの宣伝はつまらないものです。いつか飽きられるのは必至ですし、ネタも尽きます。それに、秋田県民でなくとも誰でもできます。東京の商社がきりたんぽを宣伝することだってできるわけですから。

すると、地元民しか知らないような、何か新しいものを掘り起こす必要が出てきます。ではどこから見つけてくるか、ということになると、これは全く新しいものを外から持ち込むか、今まで良いとは思われていなかった魅力を「再発見」するしかありません。

この「再発見」するというやり方の最たるものは、いわゆるB級グルメです。

だけどこのB級グルメにしてみても、形骸化してしまえば同じことです。どこの地域でも同じことをやり始めれば、やっぱり上っ面だけ便乗している形になって、いずれ統一感もなくなり、残ったものもマニュアル化・マンネリ化して手抜きになり、技術を継ぐ人もいなくなっていずれ廃れるでしょう。

悲観的で申し訳ないのですが、ここからが本題です。

「じゃあどうすればいいのか」。

答えは「人を育てる」ことです。

少し考えてみてほしいのですが、宣伝される「地域」というのは、山や海のようにほっといてもひとりでに生まれるものではありません。「人」が一人もいない場所は「地域」ですらなく、文化もありません。

少しひねくれた考え方ですが、地域おこしにおいて紹介されているのは地域そのものではなく、紹介している地元民たちの心意気、発想、認識、魂でもあります。それこそが「地域」を作っていくんです。

しかもそういった人々の発想も、何もないところから生まれてくるのではありません。逆のことを言うようですが、まず「地域」があって、それを人が紹介し、紹介することによってまた「地域」が作られ、育てられていくのです。このぐるぐるの循環の中で、人が育てられ、地域が育てられていきます。そうした中から生み出された名所や名物は、上っ面だけをなぞった宣伝物などよりもずっと骨があるはずです。

ではもう少し具体的に、「人」をどのように育てればいいのか。ここで、いわば成長剤として力を発揮するのが、実は「笑い」なのだと思います。

ここで言う「笑い」とはもちろん嘲笑とかではなく、積極的に、いい意味で「笑い飛ばす」ことです。

この、笑い飛ばすという見方は実に独特です。嫌なことや辛いことも、笑い飛ばしてしまうことで気持ちが変わることがあります。客観的に見る、というほど冷たくはないけれど、だけどその対象から一歩距離を置いて、より広い気持ちで見ることができるようになります。

先に書いたような、地域の良いところの上っ面だけを取り上げて、それに便乗しただけの宣伝というのは、こうした「笑い」がありません。マニュアル通りですからね。面白くないし、面白くないなら当然、笑いもないのです。

上っ面だけでなく、地域に眠る良いものを掘り起こす視点が「笑い」です。たとえばいわゆるお国言葉や、ワイルドな風習の食べ物などは、地域の人はみっともない、恥ずかしいと思って外に出さないことがあります。だけどこれを、一歩下がって「あはは、なんだこりゃ」という視点で一度笑い飛ばしてみると、どうでしょうか。それが地域おこしのタネになるということは、いくらでもあると思います。

くどくど書いてしまいましたが、要は「面白がる」ことが大事なのです。

少し硬い書き方をすると、すでに完成し、評価も固定化してしまった地域の特産品に便乗するやり方は、見方を変えればそれ以外のものを排除するやり方でもあります。ここで排除されたものを、笑い、面白がる力でもってどんどん取り込んで工夫していく視点がないと、いつかは飽きられ、面白がってもらえなくなり、人も地域も育たなくなることでしょう。

ものすごい遠回りをしてきましたが、僕が従来のご当地本を不満に思い、『はじめての秋田弁』『あきたをおしえて!!』の中に見出したのは、こういう視点だったのです。

この2冊の本で描かれている女子高生たちは、明らかに地元・秋田のことを笑い、面白がっています。県外から来たという転校生がいるからなおさらで、地元のことを語り合うのも実に楽しそう。また同時に、彼女たちが文化のギャップに戸惑っている姿もまたユーモラスで、笑いを誘います。

笑いの要素が入っているのは、物語世界の内容だけではありません。特に『あきたをおしえて!!』の方は製作者側もかなり面白がっているのが分かります。

試しに適当なページを開いてみましょう。すると漫画のみならず、地域の豆知識や方言などが、うるさくならない程度に見開きでバランスよく配置されています。そのどれもこれもが真面目くさったものではなく、おかしみを誘うものばかり。ああこの本を作った人たちは秋田のことを本当に好きなんだな、と感動すらします。

僕自身は単純に、秋田という地域の文化的な空気というか雰囲気というか、そこに住んでいる人たちの思いが知りたかったのです。でもそれは、やはりこの「笑い」という媒体を通さなければ描くのは難しいものでしたし、またそれはここまででも長々と書いてきたように、地域おこしにおいても大事な視点だと思います。

そしてそういう、物事を新しい視点で発見し、笑いながら新鮮な驚きで捉えることができるのは、なんといっても若者です。その意味でも、この2冊の漫画の主人公たちが女子高生なのは実に当を得た設定ですよね。

また成長というキーワードで見ると、この本の作者のこばやしたけし氏も、本を2冊出すまでの間に絵がグングン上達しているのが分かります。この絵柄は、いわば秋田という現実の地域と、4コマ漫画の物語世界とをつないで成長させていく力そのものでしょう。

さて、僕は隣県の山形県の人間ですので、そのつながりも少し書いておきます。

秋田と山形は、方言でもかなり共通するところがあります。ですから、ある特定の言葉に込められた思いはものすごくよく分かりますし(「うるがす」は「うるかす」の訛りだと思っていたとか)、都会に対するコンプレックス交じりの気持ちも共通するものがあります。また、あじまんや芋煮フェスのことなど、ちょこっと話題にしてもらえてるのも嬉しいですね。そういう意味では親近感が湧きます。

山形もこういう形での地元宣伝をすればいいのにな~と心から思います。チャンスがあれば僕も文章でそういうのに貢献したいです。

とはいえ秋田、特に秋田市は文化圏的に、都会的で意識が開かれているところがあるんですよね。県庁所在地が海端にあるというのは、文化的にかなり大きいと思います。昔から、船を通して外の世界との交流が盛んなわけですから。現に山形県でも、酒田市や鶴岡市は文化的に開かれているというか、新しいものを貪欲に取り入れる文化的土壌があるように思われます。僕が住んでいるのは内陸も内陸、山に囲まれた天童市なので、保守的になるのは致し方ないところもあるかな、と。

ただ僕は秋田に対しては観光客ではなく、地元民でもなく、離れて住んでいるけれど愛着がある、というちょっと特殊な立場です。なおかつ東北文化圏同士として親近感もあるので、特別にこの本に対しておかしみを感じられるのかも知れません。その意味では特権的立場ですし、ではこの本は本当はどんな人向けなのか? という疑問もちょっとはあります。

この2冊の本を批判するとしたら、やはり一番はその点になるでしょうか。この本は観光客向けなのか、地元民向けなのか、そのコンセプトをはっきりさせないと難しい部分があるということ。

あともうひとつは、グングン上手になっていると先に書いたものの、基本的には若い人向けの絵柄(アキバ的とかコミケ的と表現してもいいでしょうか)なので、読者層がさらに狭まってしまう可能性があるということでしょうか。これをいかに克服するか、というのは問題かも知れません。

個人的には、後者の問題はあまり問題視せずに、突っ走ってほしいところですけどね。他の漫画からの引用ネタもアニメネタも全然OKで、いっそ突き抜けて下さい。

この本のおかげでますます秋田の食べ物や歴史に興味が湧きました。次に赴くのが楽しみです。ダダミ、かやぎ、十文字ラーメンにだまこを食べたいものです。そして今度こそ金萬をニジュウハチコ食べます!

作者のこばやしたけし氏のブログというかホームページ? はこちらになります。
【あきた4コマち!】

さて、僕の中ではすっかり萌えキャラ化しているユリちゃんとわかみちゃんのイラストを探しに行きますか……。いざpixiv。